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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)7736号 判決 1998年3月23日

原告

全国自動車交通労働組合大阪地方連合会

右代表者執行委員長

佐伯幸一

右訴訟代理人弁護士

小林保夫

横山精一

被告

大軽タクシー労働組合

右代表者執行委員長

横山泰久

右訴訟代理人弁護士

大澤龍司

主文

一  被告は、原告に対し、二〇五万四五八〇円及びこれに対する平成九年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、大阪府下一円の自動車運輸に関係する労働組合で組織する連合会であり、現在、五四の労働組合を組織している。

(二) 被告は、原告に加盟する労働組合の一つとして、訴外大軽タクシー株式会社の乗務員で組織されていたが、平成九年三月一三日、原告から脱退した。

2  年間定額制会費

(一) 原告規約三六条二項は、会費は、年間定額制として大会で決定する旨規定している。

(二) 平成八年一一月一四日、一五日に開催された原告の第五一回定期大会は、同大会に提案された平成九年度(平成八年一〇月一日から平成九年九月三〇日まで)の予算案(年間定額制会費として、被告については、登録組合員一人当たり月二〇〇〇円を一七〇名分につき徴収するもの。)について、審議の結果、可決承認する旨決定した。

3  臨時徴収会費(年末カンパ及び春闘特別会費)

(一) 原告規約三六条三項は、中央委員会で必要と認めるときは、臨時会費を徴収することができる旨規定している。なお、原告は、従前から、臨時会費の徴収に当たっては、中央委員会より上位の機関である大会でこれを決定してきた。

(二)(1) 平成八年一一月一四日、一五日に開催された原告の第五一回定期大会は、年末カンパとして、被告につき、登録組合員一人当たり一〇〇〇円を一七〇名分につき徴収する旨の提案につき、審議の結果、これを可決承認する旨決定した。

右年末カンパは、全国自動車交通労働組合(以下「自交総連」という。)加盟組合の長期争議支援、原告加盟の争議組合の援助等を目的として、毎年原告の定期大会において、金額を含めて原告執行委員会により提案され、大会において、審議・議決されてきたもので、原告規約三六条三項の臨時徴収会費としての性質を有する。

(2)ア 平成八年一一月一四日、一五日に開催された原告の第五一回定期大会は、春闘特別会費として、被告につき、平成九年一月末日現在の交通政策闘争基金の会員一人当たり二〇〇〇円を徴収し、そのうち一五〇〇円を原告に納入し、残りの五〇〇円は単位組合の春闘闘争費に充てる旨の提案につき、審議の結果、これを可決承認する旨決定した。

イ 右平成九年一月末日現在の被告の交通政策闘争基金の会員は、二八名であった。

右春闘特別会費も、(1)と同様に、原告の定期大会において、金額を含めて原告執行委員会により提案され、大会において、審議・議決されており、原告規約三六条三項の臨時徴収会費としての性質を有するものである。

4  しかしながら、被告は、原告に対し、右の年間定額制会費、年末カンパ及び春闘特別会費のいずれをも全く支払わない。

5  よって、原告は、被告に対し、次のとおり支払を求める。

(一)(1) 平成八年一〇月分から被告が原告を脱退した平成九年三月一三日分までの年間定額制会費として、一八四万二五八〇円

二〇〇〇円×一七〇×(五か月+一三日/三一日)=一八四万二五八〇円

(2) 平成八年の年末カンパとして、一七万円

一〇〇〇円×一七〇名=一七万〇〇〇〇円

(3) 春闘特別会費として、四万二〇〇〇円

一五〇〇円×二八名=四万二〇〇〇円

(二) (一)(1)ないし(3)の合計額二〇五万四五八〇円に対する訴状送達の日の翌日である平成九年八月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は、いずれも認める。

2(一)  請求原因2(一)は、認める。

(二)  同2(二)は、知らない。

なお、原告の定期大会においては、組合員一人当たりの負担額が決定されるものの、各単位組合の登録組合員数及び会費額が定まるものではなく、そもそも登録組合員数決定のための大会決議は存在しない。

登録組合員数は、原告の大会決議で決まるものではなく、各地区協議会(被告の場合には、北東地区協議会(以下「北東地協」という。))が所属単位組合(被告)の同意を得た上で決定していた。現に、原告の約五〇年間にわたる歴史において、単位組合の反対を押し切って、登録組合員数が決定されたことはない。

登録組合員数の実組合員数に対する割合は、原告加盟の単位組合間で顕著な格差が存し、右格差の存在は、一部単位組合に対し、必然的に一定の財政面での不利益を甘受させる結果となるが、右不利益受容の強要を正当化しうる法的根拠も存しない。したがって、右北東地協での登録組合員数の決定につき被告の同意を要することは明らかである。

3(一)  請求原因3(一)は、認める。

(二)(1)  同2(二)(1)は、知らない。

(2) 同2(二)(2)のうち、アの原告大会での決定があったことは知らない。

なお、原告の定期大会においては、組合員一人当たりの負担額が決定されるものの、各単位組合の登録組合員数及び会費額が定まるものではなく、そもそも登録組合員数決定のための大会決議自体が存しないこと、右登録組合員数の決定につき各単位組合の同意を要することは前記のとおりである。

4  請求原因4は、認める。

三  抗弁

1  登録組合員数の決定につき単位組合の同意を要する旨の慣行

前記二2(二)記載のとおり、登録組合員数の決定は、北東地協において被告の同意を得た上でされるのであるが、仮に、北東地協ではなく原告大会において登録組合員数の決定がされたとしても、前記のとおり、右登録組合員数の決定には単位組合の同意を要する旨の慣行が存在し、この同意が右決定の有効要件であるところ、本件においては被告の同意がなく、右決定の効力が認められないから、被告に年間定額制会費等の支払義務は発生しない。

2  意見聴取の不備

(一) 前記のとおり、登録組合員数の決定は、各単位組合の財政に重大な影響を及ぼすこと、登録組合員数の実組合員数に対する割合につき、各単位組合間でかなりの格差が存することなどに照らせば、少なくとも、不利益を受ける当該単位組合に対し、十分な協議及び誠意ある説得の努力があって初めて年間定額制会費等の支払義務が発生すると解すべきである。しかしながら、本件では、右協議及び説得の努力は全く尽くされていないから、結局、被告に年間定額制組合費等の支払義務は発生しない。

(二) 登録組合員数を決定するのに、単位組合の同意が必要ではないとしても、当該単位組合の意見を聴取すべきであるのに、原(ママ)告は、本件組合費につき、その登録組合員数を決定する北東地協の会議に出席を認められず、また、右会議の日程の連絡も受けていないばかりか、北東地協の会議の後に開催された原告の第五一回定期大会にも出席を認められなかった。このような、被告が全く排除された形でされた組合費の決定は、無効である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は、否認する。

2(一)  同2(一)は、否認する。

(二)  同2(二)のうち、原告の第五一回定期大会に被告が参加していないことは認めるが、その余は否認ないし争う。

原告は、規約に基づき、第五〇回臨時中央委員会において、被告に対し、平成八年四月一日から一年間の権利停止処分をしたから、被告の三役等が原告の第五一回定期大会に参加できなかったのは当然の帰結であり、権利停止中であっても、会費納入義務があることは当然である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1は、当事者間に争いがない。

2  そこで、同2(年間定額制会費)及び同3(臨時徴収会費)について検討する。

(一)  証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、平成八年一一月一四日、一五日に開催された原告の第五一回定期大会において、<1>平成九年度の年間定額制会費として、登録組合員一人当たり月二〇〇〇円(被告については一七〇名分)を徴収すること、<2>平成九年の年末カンパとして、登録組合員一人当たり一〇〇〇円(被告については一七〇名分)を徴収すること、<3>春闘特別会費として、平成九年一月末日現在の交通政策闘争基金の会員一人当たり二〇〇〇円(被告については二八名分)を徴収し、そのうち一人当たり一五〇〇円を原告に納入し、残りの五〇〇円は単位組合の春闘闘争費に充てることを内容とする各提案につき、審議の結果、これを可決承認する旨各決議がされたことが認められる。

(二)  そこで、その余の点について判断するに、当事者間に争いのない事実及び証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告においては、三つの地区協議会(なお、他にバス部会がある。)があり、被告は、そのうちの北東地協に所属していた。地区協議会は、各単位組合の実情を把握し、適正な登録組合員数を各単位組合に割り当てるべく、各単位組合の意見調整等を主な活動内容としていた。

(2) 平成五年一月一四日の北東地協の会議において、被告から富田林支部が分離独立するに当たり、それまでの被告の登録組合員数二五〇人を同年三月から二二〇人に変更し、さらに、同年四月からは、一九〇人とする旨協議・調整が行われた。その結果、北東地協は、被告の職場事情ないし財政事情を勘案の上、被告の申出に応えて暫定的に被告の登録組合員数を右のとおり減少することとし、右減員によって生ずる総登録組合員数の減少については、北東地協所属の単位組合が応分の負担をすることにより対処することとした。

(3) 平成五年九月二五日の北東地協の会議において、それまでの被告の登録組合員数一九〇人を一七〇人に変更する旨協議・調整が行われた。その結果、北東地協は、(2)と同様、被告の職場事情ないし財政事情を勘案の上、被告の申出に応えて暫定的に被告の登録組合員数を右のとおり減少することとし、右減員によって生ずる総登録組合員数の減少については、北東地協所属の単位組合が応分の負担をすることにより対処することとした。

(4) 北東地協における右登録組合員数の各調整を受けて、原告執行委員会は、平成五年一〇月二二日の「第一四回執行委員会」において、第四八回定期大会に提案する平成六年度の予算案(年間定額制会費として、登録組合員数一人当たり二〇〇〇円×一二か月×三五〇〇名を徴収するもの)を前記被告らの登録組合員数をもとに作成・確認した。

(5) 平成五年一一月二四日、二五日に開催された原告の第四八回定期大会において、原告執行委員会提案に係る右予算案は、可決承認された。また、右大会において、年末カンパとして、登録組合員一人当たり一〇〇〇円を徴収することを大会に提案し、可決承認を得た。

なお、原告は、右定期大会での提案に先立ち、前記経緯で確認された各単位組合の登録組合員数(被告については、一七〇名)を書面化した上、事前に予算案とともに配布して、これを周知せしめた。

(6) 平成六年一一月一五、一六日に開催された原告の第四九回定期大会、平成七年一一月一五、一六日に開催された原告の第五〇回定期大会はもとより、平成八年一一月一四日、一五日に開催された原告の第五一回定期大会においても、前記同様、北東地協における右登録組合員数の各調整を前提に、原告執行委員会提案に係る平成七年度、同八年度及び同九年度予算案(いずれも、被告については、年間定額制会費として、登録組合員一人当たり二〇〇〇円×一二か月×一七〇名分を徴収するもの。)が可決承認された。また、右各大会において、前記同様、年末カンパとして、登録組合員一人当たり一〇〇〇円を徴収することを提案し、可決承認を得た。なお、原告は、右各定期大会での提案に先立ち、各地区協議会で確認された各単位組合の登録組合員数(被告については、一七〇名)を書面化した上、事前に予算案とともに配布して、これを周知せしめた。

(7) 原告は、二〇年近くにわたって、毎年、大会の決議で自交総連参加の全国の労働組合の長期争議支援、原告加盟の争議行為組合に対する支援、援助等を目的として、単位組合から定額(数年来、一〇〇〇円×登録組合員数)を年末カンパの名称で徴収し、これを執行(支出)してきた。

以上の認定事実によれば、年間定額制会費及び年末カンパの各徴収は原告の定期大会において決定されるが、その際、右会費徴収の基礎となる登録組合員数は、右各定期大会に提案するに当たり、各単位組合の実情を反映すべく、各地区協議会により討議調整がなされたこと、各単位組合の登録組合員数(被告については、一七〇名)を記載した書面は、各大会前に予算案と共に配布されたこと、これらをもとに提案された予算案ないし議案が各大会で可決承認されたことが認められ、右事実によれば、右各大会において、各単位組合につき、それぞれの登録組合員数(被告につき、一七〇名)分を各徴収する旨決定されたということができる(その意味において、北東地協段階での前記登録組合員数の決定等は事実上のものにすぎず、また、北東地協段階で、被告において従前の年間定額制会費等の負担につき減額の措置が採られていたとしても、右は、次年度の定期大会における正規の変更までの間、他の関係単位組合の同意を得た上、被告の支払をなすべき債務の一部を肩代わりしてもらったにすぎないということができる。)。

なお、請求原因3(二)の年末カンパ及び春闘特別会費の各算定の基礎は、前者にあっては登録組合員数であり、後者にあっては交通政策闘争基金の会員数であって、両者の間に差異が存するが、右各会費等の性質等にかんがみ、右のいずれも、原告規約三六条の臨時徴収会費に該当するものということができる。

したがって、請求原因2及び3は、いずれも理由がある。

(三)  以上によれば、原告は、被告に対し、年間定額制会費及び年末カンパについては、一七〇名の登録組合員数を、春闘特別会費については二八名の交通政策闘争基金の会員数を基礎として計算した金員を左記のとおり請求することができる。

(1) 平成八年一〇月分から被告が原告を脱退した平成九年三月一三日分までの年間定額制会費として、一八四万二五八〇円

二〇〇〇円×一七〇×(五か月+一三日/三一日)=一八四万二五八〇円

(2) 平成八年の年末カンパとして、一七万円

一〇〇〇円×一七〇名=一七万〇〇〇〇円

(3) 春闘特別会費として、四万二〇〇〇円

一五〇〇円×二八名=四万二〇〇〇円

二  もっとも、これに対し、被告は、抗弁を主張するので以下検討する。

1  抗弁1(登録組合員数の決定につき単位組合の同意を要する旨の慣行)について

証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、過去五〇年にわたり、原告に加盟する単位組合の登録組合員数の決定に際し、当該単位組合が反対意思を表明したにもかかわらず、これを押し切って決定がなされたことは一度もなかったことが認められるが、右は、前記北東地協等による登録組合員数についての調整により、事実上、右単位組合の意思に反する内容の大会決定がなされなかったにすぎず、これをもつて、被告主張の慣行が存することの根拠とすることはできないし、他に被告主張の慣行の存在を認めるに足りる証拠はない。

また、被告は、原告に加盟する単位組合間において、実組合員数に対する登録組合員数の比率にかなりの不均衡を生じているとし、右不均衡の存在にもかかわらず、当該単位組合(被告)の同意を要しないと解すれば、被告に対し、不利益な登録組合員数の受容を強要し、被告の財政破綻を招来する結果となる旨主張する。

しかしながら、原告規約(<証拠略>)によれば、同三六条二項及び三項によって、本件の会費中、年間定額制会費は大会において決定し、臨時徴収会費は中央委員会において決定すると定めるのみで(もっとも、前記のとおり、本件においては、臨時徴収会費の徴収についても大会において決定されていた。)、被告主張の右不均衡につき、明示的な対策を講じていないことが認められるが、右は、むしろ、大会決議のとおりにすべての加盟組合が拘束されることを予定しているものというべきであり、この点は組合自治及び組合民主主義の観点からも首肯しうるから、被告の右主張は失当である。

2  抗弁2(説得等の手続の不備)について

(一)  抗弁2(一)に関し、右登録組合員数の決定につき、十分な協議及び説得の努力が登録組合員数決定の効力要件となっていると認めるに足る証拠は存在しない。よって、この点に関する被告の主張は理由がない。

(二)  抗弁2(二)のうち、原告の第五一回定期大会において被告の参加がなかったことは、当事者間に争いがないところ、当事者間に争いのない事実並びに証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告に対し、第五〇回臨時中央委員会において、被告の会費滞納を理由に、原告規約一八条及び一九条に基づき、平成八年四月一日から一年間の権利停止処分をしたこと、そのため、被告の横山執行委員長ほか二名の組合三役が北東地協に出席を認められず、同会議の後に開催された原告の第五一回定期大会にも出席を認められなかったこと、右定期大会には、結局被告の代議員の出席も認められなかったことが認められ、右事実によれば、原告の単位組合であった被告の執行委員長以下組合三役及び単位組合自身が原告の統制処分を受けたため、原(ママ)告の代議員らについても前記年間定額制会費等を決定した前記定期大会に出席できなかったことが明らかである。そうすると、右処分が無効でない限り(本件においてこれを無効とすべき事情は認められない。)団体自治の原則からして、被告は、当時原告に加盟していた以上、その権利が停止された結果として、代議員らが前記定期大会に出席できなかったとしても、依然として会費を納入すべき義務があるというべきであるので、抗弁2(二)は、結局、理由がないことに帰する。

三  結論

以上によれば、原告の請求は理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 谷口安史 裁判官 仙波啓孝)

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